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ボクノカタチ

  • 執筆者の写真: イリス
    イリス
  • 2019年11月3日
  • 読了時間: 4分

 人を創造する事の意味、それを知る者はこう言うだろう。


 「ただの傲慢(エゴ)」だと。




僕は原初、僕は終末。

もっとも僕は原初であり原初ではない存在。

僕が形を成すよりもずっとずっと前に原初は在り、僕と同じように形を成した。

だがその原初もまた自らの傲慢(エゴ)が招いた結果により多くの者を苦しめ、そして壊していった。

その代償を、自らの消滅という形で終末を迎える。


そう、僕は原初の模倣体・創造体──言い方は何にせよ、望む者達の期待に応える事の出来なかった原初と呼ばれる宇宙のコピー。

人々は僕をこう呼んだ──「シオン(全知存在)の劣化コピー」と。


劣化・・・年月とともに次第に性能自体の質が衰えてゆく事。

けれども僕は使われる事なく、果てしない闇の宇宙へと捨てられた。

一つの塊は長い長い時を超え、僕と同じフィーリングの残滓を辿り一つの惑星へと降り立つ。

地球と呼ばれる青い星、人々は未だ多くの物を扱うには不十分な知能と知識しか持っておらず、僕と言う残滓に目を向ける者は、誰もいない。


そう、長い年月は僕にとって一瞬、数日の感覚。

宇宙を漂う時間に比べて、そこはあまりにも目まぐるしく状況が変化する。

人々が争い殺し合い、時に手を取り合い愛しあい、やがて子孫を残して死んでゆく。

生き物の生存、繁栄、憎悪、崩壊────何処かに似ている。



僕の中には二つの源が存在し、一つは僕を捨てた人たちと同じ源。

もう一つは僕が降り立った星の源。

全知存在の模倣体として創造され捨てられた者は、この星で【母(マザー)】と呼ばれた。

母の源の残滓は星に残り、母体は既に無い。

僕が直接見たわけでもなく演算したわけでもない。

僕を拾った女性が、そう言った。


ただの欠片だった僕は、女性の手から僕が生まれ満ちた宇宙へと戻る。

不思議と懐かしさは感じないし、真新しさも感じない。

僕を造り上げた人たちの気配も、ない────唯一、一人を除いては。



 「また下らない回想でもしてるんですか?Luther」



僕の形の源の一人、彼の心に残る憎悪は次第に薄れてはいったが、完全に消えたわけじゃない。

だからこそ憎悪の原因である者を形取るとどうなるのか・・・完全に僕の興味本位でありエゴである。

案の定戸惑いと激しい憎悪、困惑もあったし迷惑だと言わんばかりに僕を遠ざけようとした。

こうなる事は僕も演算済みだし、逆に困らせたくて態と近づいたりもした。

もう一人の源はいきなり僕に切りかかろうとしたけれど、別人だと知るとあっさりと刃を下した。

暫くは侮蔑するような態度を取ったけれど、それは彼女にとっても本意ではなかっただろう。


 「Luther、聞いているのですか?」


 「聞いているよ」


 「ならば返事ぐらいして下さい。地球側からお借りした本、片してください。足の踏み場もありませんよ」



僕は今、オラクルと言われる宇宙で生きている。

暗く果てしない場所とは違い、ここにはアークスと呼ばれる人や一般市民も多数存在するし、何故か地球からの来訪者もある。

その地球からの来訪者は僕の為に、沢山の本を持ってオラクルへとやってくる。

僕が見てきた「歴史」と呼ばれる出来事を記した物や、各都市に存在する伝説や宗教、自伝本など様々だ。

それらを一日数十冊以上読み漁っているものだから、間借りしている部屋の床や机には沢山の本が詰まれている。

所謂速読と言われる読み方だが、内容は十分理解している・・・つもりだ。


そう、「つもり」なのだ。


だって僕は、記された中身を観てきたのだから・・・。


 「Luther・・・」


 「分かった、今片づける。それでいいのだろう?カスラ」


僕の声が名を呼ぶ。

ほんの僅かに不快感を示すフィーリングを感じ取ったが、溜息と共にかき消された。


 「それとLuther、貴方が造ったアレも何とかしてくださいね?私は一切関わりませんよ?」


アレ、とは・・・随分な物言いだ。

いや、僕も当初はアレ呼ばわりされたものだが・・・。




僕の中に流れる母なる残滓────エーテル。

地球からの来訪者は言った、「想いの力は不可能を可能にする」と。

その力は母(マザー)を闇に落し、少女は闇を切り裂く刃を創造した。


僕のエーテルは、僕の望みを形にする。

守護輝士が奮闘したオメガに出現した人も、僕の創造のエーテルはアバターを介して形作った。

名を「エルミル」と言う。

守護輝士と管理管制を任されているシエラから話を聞いて、僕のエーテルが創造した。

見た目はオメガに存在した本人とよく似ているというが、性格に関しては違うらしい。

否、違って当然だ。

僕の希望で成り立っているから、物腰が柔らかい・・・はずだったのだが?

僕が留守にしている間に守護輝士が余計な事を吹き込んでいるようで、段々とオメガに存在した彼に寄ってきていると言う。

だがそれもまた一興なのだろう。


人は一人では生きられない。

多くの人と触れ合い知識を与え与えられ、成長が無ければ時は止まる。


たった一人の者がどう成長してゆくのか、


僕もまだ、発展途上の造られし者だ。




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